出てきたマリネサンドを食べ終わりコーヒーも半分ほど飲み終わった頃、里美が店の入り口から入ってきた。俺が里美の持ってきてくれた物をたいらげている間に里美は着替えを済ませ、裏口から出て正面に回ったらしい。なかなかの早業だな。  美幸と一言二言交わした後まっすぐこちらに来て、少し恥ずかしそうに周りを見てから俺の正面に座った。 「バイトお疲れさん」 「今日は…もう少し早く上がる予定だったの、本当は」  ん? 「あ、ひょっとして待たせちゃった?」  俺は一応里美の上がり時間を聞いてそれに合わせて来たつもりだったんだが。 言いたい事を察したのか、里美があわてて首を横に振る。 「ちがうの。少し早く片付けが終わったから、早く上がってもいいよっておとうさんが」  未だに俺はあの店長がこの子の父親だということに慣れないというか違和感を覚えるというか……だがいい人らしいというのはよくわかる。見た目は変だが器は大きいというか。 「そうか、里美ちゃんの手際が良いから早く仕事が終わったんだね」 「そういうのじゃないけど……」 「よし、じゃぁご褒美に俺が何かご馳走するよ、何が好き?」  メニューを差し出すと里美は困ったような顔をした。 「えぇと……」 「何でもいいよ、飲み物でも甘いものでも、がっつり食い物でも」  遠慮しているのかと思いそう言ったのだが相変わらず里美は困り顔。 「あ……腹、減ってない?」  首を横に振る。 「おなかは、すいてるけど……えっと」  そこでやっと気がついた。里美はここの家の子なのだ。 「ごめん、そうだよな、どっか他に食べに行こうか。何が好き?」  自分の家でご馳走も何も無いだろう。店のメニューは一通り食べて食べ飽きてるかもしれない。 「好きな食べ物は……お菓子」  え? 「ん?ケーキとか、クッキーとか?」  他の喫茶店に移動でもするか……?と思ったがそれを遮って里美は恥ずかしそうに続けた。 「チョコとか、ポッキーとか、あめとか、そういうの」 「あぁ……そういうのか」  ご馳走するよ、に対しての返事にはおかしいが、里美が一番好きなのはそういうお菓子なんだろう。  何かそういうズレも里美らしいというかどこか幼くて可愛い。 「あ、じゃぁ……これ」  荒巻からもらった菓子を鞄から取り出す。チーズケーキ味ポッキー。 「あげるよ。こんなのしかないけど」 「いいの?ありがとう」  たかがこんなポケット菓子一つで喜ぶなんて、なんか申し訳ないような、嬉しいような。  少し恥ずかしそうに封を開けて本当においしそうに食べる里美がまた可愛い。 「じゃぁ今度もっといっぱい持ってくるよ」  喜ぶに違いない、と思って言ったのだが里美はこれもまた微妙な顔をした。 「あれ?」  要らない? 「……一日、一個ずつなの」 「え?」  小さい頃ならご飯が食べられなくなるからお菓子は一個まで、など決められていたが、さすがにもうそんな歳でも無いかと思うのだが。 「だっていっぱいお菓子食べたら……太っちゃうもん」  少し頬を膨らませた里美がかわいくておかしくてつい噴き出してしまう。 「あはは、確かにそうだ」 「笑い事じゃ、ないんだから」 「うん、じゃぁ俺が毎日一個ずつ持ってきてやるよ。リクエストはメールで受付」 「ほんと?」 「あぁ、俺が来れる日は毎日」 「ありがとー」  満面の笑顔は毎日のお菓子に対してか、それとも淡い期待通りなら、毎日来るよと言ったことに対してか……後者だといいなぁ。などと思いながら腕を伸ばして里美の頭をなでた。