■■プロローグ 電車内にて 隆也「……っと」[p] [er] 停車駅を告げるアナウンスで目が覚めた。[l] [er] 俺は寝ぼけた目を擦りながら辺りを見渡す。[l] [er] ;背景の表示 ;電車の効果音 (ガタン…ガタン…)[p] [er] 車内の窓は、目的地の風景を映し出している。[r] ……どうやら、もう少しで寝過ごすところだったようだ。[p] [er] 隆也「ふぉぁぁぁ〜……」[p] [er] ……相変わらず眠い。[r]いっその事二度寝に入って寝過ごそうかとも考えたが、いくらなんでもそうは行くまい。[p] [er] アナウンス「まもなく〜、吉祥寺〜吉祥寺〜……」[p] [er] 相変わらずの発音で車掌が繰り返す。[p] [er] そろそろ降りる準備をしなくてはいけないな。[p] [er] 足元にある馬鹿でかいリュックサック。そいつを立ちながら、ひょいと担ぎ上げた。[p] [er] 隆也「おんもーっ☆」[p] [er] 引越しの荷物が詰まったそれは異常なほどに重い。[p] [er] 馬鹿げた量の荷物を見下ろしながら、深い溜め息を吐いた。[p] [er] 僅かな引越し代をケチった自分を呪う。[p] [er] 隆也「内藤隆也……一生の不覚……」[p] [er] しかし、ここでへばっていては電車を降りることも出来ない。[p] [er] こらえながら、網棚に置いたスーツケースを手繰り寄せた。[p] [er] 隆也「ぐっはっ……!」[p] [er] あまりの重さに腰が砕けそうになるが、なんとか堪えてスーツケースを床に下ろす。[p] [er] ;物を落とす効果音 ガシャンッ![p] [er] 隆也「うわっ!」[p] [er] が、最後の最後でしくじって派手に荷物を落っことしてしまった。[p] [er] ……隣に座っていたおばさんが、いかにも迷惑顔で居住まいを正す。[p] [er] 隆也「いやぁ〜……すみません……」[p] [er] 慌てて謝るが、おばさんは興味無さげに一瞥すると、持っていた単行本に目を移した。[p] [er] 隆也「はは……」[p] [er] 所在無く照れ隠しの笑みを浮かべて、何気なく車内を見回す。[p] [er] と、向かいの座席に座る少女と目が合った。[p] [er] ;立ち絵(美幸:無表情) 規則正しく揺れる車内の中で、女の子はどこか一点を見据えて座っていた。[p] [er] 少女は動かない。けれど、目蓋は忙しなくパチパチとまたたいて、さながら何かに驚いているような……?[p] [er] 隆也(……何を見ているんだ?)[p] [er] 見た目は多分高校生くらい。両隣を油ぎっしゅなサラリーマンに囲まれているせいか、肌の白さが余計に際立っている。[p] [er] 別段やましい気持ちがある訳でもないのに、不思議と俺はこの少女から目を離せられないで居た。[p] [er] 隆也(いや、だって……)[p] [er] 実は、俺はさっきからこの少女と目が合っている。[p] [er] 俺の目線と女の子の目線が合うと言う事は、つまり……、[p] [er] 隆也(この子……俺を見ているのか……?)[p] [er] ;フェードアウト・イン ;電車の音 恐らく時間にしては十数秒だと思うが、俺にとっては無限に感じた時の中で、[p] [er] 俺と少女はずっと見詰め合っていた。[p] [er] 少女(じーーー……)[p] [er] 相変わらず女の子は俺を見詰めている。[p] [er] 隆也(うーん……)[p] [er] 少女(じーーー……)[p] [er] 隆也(……)[p] [er] 少女(じーーー……)[p] [er] 隆也(これはまさか……『ナンパ待ち』というやつではないのだろうか?)[p] [er] ……そう思うと急に恥ずかしくなって、浮き足立ってきた。[p] [er] さりげなくを装って前髪を直したり、女の子を良く観察してみたり。[p] [er] 隆也(ま、まさか『逆ナン』とかいうのには発展しないよな……? さすがに困るぜ)[p] [er] これだけ大勢の乗客の前で、女の子にナンパされるシチュエーションを想像してみる。[p] [er] いや、それはそれで気分は良いものかも知れない。[p] [er] ;SE 電車の音 アナウンス「えぇ〜、まもなく吉祥寺に到着します〜。降り口は右側〜……」[p] [er] ・・・…ぐっ! どうやら残された時間は僅かなようだ。[p] [er] 俺はもう一度少女を見る。[p] [er] 少女(じーーー……)[p] [er] ……相当に可愛い。恐らく、これほどの美人とお知り合いになれるチャンスは、そうそう無いはずだ。[p] [er] ……俺は意を決して、この少女に声を掛けた──![p] [er] 隆也「えっと……、今、一人?」[p] [er] 声を掛けたは良いが……どうにも反応が鈍い。[p] [er] てゆーか、無反応??[p] [er] なにやら暗雲立ち込めた、嫌な雰囲気に身震いしつつも、もう一度声を掛けてみる。[p] [er] 隆也「暇なら……お茶しな〜い? はは……」[p] [er] 『お茶しない?』なんて、今時言うのかどうかは甚だ疑問では有るが……。[p] [er] ;美幸 不機嫌 けれど、ここで初めて少女がリアクションらしいリアクションを示した。[p] [er] 女の子はいぶかしむ様な視線を俺に送る。……心なしか、『お前誰?』なんて言いたげな視線を感じるのだが……。[p] [er] ……冷や汗が落ちる。もしや、俺は大きな勘違いをしていたのではないだろうか──?[p] [er] 少女「私、忙しいんで……。それじゃ、失礼します」[p] [er] 女の子は、やっとこさそれだけ言うと、今度は目も合わさずに席を立つ。[p] [er] 挙句、何も告げずにそのまま隣の車両へと消えて行ってしまった。[p] [er] ;美幸 非表示 ……俺は失笑の渦に囲まれながら、[p] [er] 何か途方も無い勘違いをしてしまった自分を呪うしかなかった。[p] ■■電車を降りて 隆也「うわ……」[p] [er] 電車から降りると、むっとした熱気が体に絡み付いてくる。[p] [er] 隆也(どうせ絡まれるなら、さっきみたいな美人に絡まれたいものだが)[p] [er] ……いや、先程の事は忘れてしまおう。[p] [er] [fadeinbgm storage="backany.mid" time="1000"] ……ここらの駅は改札でたら直ぐホームというわけではない。[p] [er] 売店でおにぎりを買うと、駅から外へ踏み出した。[p] [er] ;背景 街 ここは郊外といえども東京。[p] [er] 駅前には大手デパートをはじめとして、様々な店がひしめき合っていた。[p] [er] もう一年も東京にいるというのに、未だに高いビルがあると上を見上げながら歩いてしまう。[p] [er] それがいけなかった──。[p] [er] ;SE ぶつかる音,画面揺らし (ドンッ!)[p] [er] 少女「きゃっ──!」[p] [er] 隆也「うわっ!」[p] [er] 誰かと思いっきりぶち当たってしまった。[p] [er] やばいな……そう思って慌てて、ぶつかった相手を確認する。[p] [er] ;立ち絵 早苗 苦痛 少女「いったたたたた……」[p] [er] 俺とぶつかった女の子は尻餅を付いていた。[p] [er] ……どうやら俺が倒してしまったらしい。[p] [er] 更に悪い事に、女の子は苦痛に顔を歪め、右足首あたりを押さえていた。[p] [er] 隆也(やべぇな……怪我させちまったか……?)[p] [er] 少しばかりヤバめだ。[p] [er] どうしたものかと女の子を見ると、そいつは敵意むき出しの犬みたいな形相で、こちらを睨み付けていた。[p] [er] ;早苗 怒り 少女「ちょっと──! あんた、どこ見て歩いてんのよっ!」[p] [er] 隆也「すみません、ちょっと余所見をしてて……大丈夫ですか?」[p] [er] そう言って伸ばした俺の手を、女の子は一瞬躊躇って、手を取らずにそのまま自力で立ち上がった[p] [er] ;早苗 呆れ顔 少女「はぁー……袋は平気みたいね。……あんた、次からは気を付けなさいよね」[p] ;早苗 睨み [er] こちらを睨みながら、女の子は母親みたいなセリフを俺に言った。[p] [er] 隆也「ん……あぁ」[p] [er] ;早苗 指摘するような顔 少女「返事はしっかり! 親に習わなかった?」[p] [er] 隆也「ぇ、う、はい」[p] [er] 隆也(お前は俺のかーちゃんか)[p] [er] 見たところ、俺よりずっと年下であろう少女に諭されて、そんな事を考えた。[p] [er] ;早苗 納得 少女「よろしい。じゃ、そういう事でね」[p] [er] 一人で納得して、女の子は立ち去ろうとした──が、[p] [er] ;早苗 苦痛 少女「……っ!」[p] [er] 女の子は歩き出そうとした刹那、顔をしかめてうずくまってしまった。[p] [er] 隆也「うん? どっか痛むのか?」[p] [er] ;早苗 焦り 少女「べ、別にそんな事無いわよ!」[p] [er] 隆也「そうか……?」[p] [er] 言葉とは裏腹に、目の前の少女は顔を歪ませたまま歩き出そうともしない。[p] [er] 隆也「肩……貸してやろうか?」[p] [er] ;早苗 顔真っ赤 少女「なっ──!?」[p] [er] 俺の言葉を聞くや否や、ビクン肩を揺らす少女。[p] [er] 少女「い、いいいいらないわよそんなの!」[p] [er] 隆也「でも、歩けないんだろ?」[p] [er] 少女「うっ……け、けどあんたっ! 初対面の人間に失礼じゃないっ?!」[p] [er] 隆也「いや、だって悪いのは俺だし……。それにその格好、バイトかなんかじゃないか? なら、急いだ方が……」[p] [er] そう言って、まだ何か言いたげな少女の目の前に肩を差し出した。[p] [er] 女の子は、しばらく思案するように目線をキョロキョロと動かした後、[p] ;早苗 譲歩するような表情 [er] 少女「あ、あんたがどうしても貸したいって言うから借りるんだからね! 別にあたしが借りたいわけじゃないんだから!」[p] [er] と言って、おずおずと俺の肩に腕を回してきた。[p] [er] この期に及んでこの態度とは、意地を張るやつだな……。[p] [er] そう思って、改めてこいつの顔を見てみる。[p] [er] 隆也「……ん?」[p] [er] ;早苗 驚き 少女「……へっ?」[p] [er] 隆也「あっ、いや、なんでもない」[p] [er] ;早苗 不審げ ……もしかすると、コイツ……結構可愛いんじゃないか?[p] [er] 短めの活動的な茶髪に、少女らしく、くりっとした瞳。心なしか良い匂いも──[p] [er] 少女「何ジロジロ見てるのよ……気持ち悪いわね」[p] [er] ……前言撤回。いくら外見が良くても、口の悪さで台無しだ。[p] ;早苗 呆れ顔 [er] 少女「ほらっ! さっさと歩いて! あそこの店だから」[p] [er] そう言って彼女の指差した先は、割と小さな喫茶店だった。[p] [er] ;フェード効果を入れてください ──女の子と二人で密着して歩くというのは、やはり人目を憚るものらしい。[p] [er] そう思って、チラリと女の子の方を見る。[p] [er] ;早苗 赤らめた顔 そこには、案の定顔を赤らめている少女の姿があった。[p] [er] 隆也「なぁ……ここ、だよな?」[p] [er] 俺の言葉に反応して、女の子がハッとして顔を上げた。[p] ;早苗 驚き [er] 少女「えっ!? あ……」[p] [er] ;早苗 通常 少女「あ、……えっと、裏口からにしてくれない?」[p] [er] 隆也「裏口?」[p] [er] 少女「入り口の脇から抜けていけばあるから……」[p] [er] そう言って、肩に寄りかかる女の子はわき道の方を指差した。[p] [er] なるほど、確かに店の入り口の横から、細い道が続いているではないか。[p] [er] なのだが……。[p] [er] 隆也「これ、二人で並んでたら通れないよな」[p] [er] ;早苗 口に手を当てて驚き 少女「あっ……」[p] [er] 女の子は驚いた後、何事か思案して口を開いた。[p] [er] ;早苗 通常 少女「そうね……。でも、この距離なら片足でも行けると思うから」[p] [er] そう言って、女の子は俺の返事を待たずに、自分から、俺に掛けていた腕をほどいた。[p] [er] それから、ケンケンの要領で裏口の扉の前へと進む。[p] [er] ;早苗 振り向き 少女「ねぇ……も、もし暇ならさ、店に寄ってかない?」[p] [er] 隆也「うん?」[p] [er] ;早苗 焦り 少女「お、お礼とかそんなんじゃないわよ! 元々悪いのはそっちなんだしねっ!」[p] [er] 隆也「ん……けどなぁ……」[p] [er] 女の子の申し出は嬉しいのだが、如何せん、日が暮れる前には新居に移りたい[p] [er] 少女「な、何よ! なんか用事があるわけ?!」[p] [er] 隆也「いや、用事があるって訳でもないが……」[p] [er] ;早苗 怒り 少女「良いわよ! 帰ればいいでしょ! もうっ!」[p] [er] ……なんでこの女の子はこんなに怒っているのだろうか?[p] [er] 少女の意図は分からないが、俺は、[p] [link target=*1a]1.店に寄ってみる事にした[endlink][r] [link target=*1b]2.やっぱり帰る事にした[endlink][r]   ■■■1.店に寄ってみる事にした [er] 隆也「分かった分かった。そこまで言うなら寄らせてもらいますよ」[p] [er] 少女の態度に半ば呆れながらも、そう答えた。[p] [er] ;早苗怒り 少女「ちょ……どっちなのよ! もう!」[p] [er] 隆也「だから行くって!」[p] ;早苗 ちょっと赤い顔 少女「来るのね! 来るって言ったんだから来なさいよね!」[p] [er] 隆也「おーぅ」[p] [er] 片手を上げて答える。[p] [er] 少女「ちゃんと来なさいよ! あっ、入り口はそこだから……」[p] [er] 女の子はそれだけ言うと、裏口から店の中へと消えていった。[p] [er] 隆也(無責任だな……)[p] [er] 溜め息ひとつ。[p] [er] 隆也(けど、退屈はしなそうかな)[p] [er] 不思議とそんな事を考えながら、目の前の扉を押し開けた──。   ■■■2.帰る事にした [er] 隆也「へいへい。んじゃ、俺は帰るぜ」[p] [er] 正直付き合い切れないと感じて、俺は踵を返してその場を立ち去ろうとした。[p] [er] ──はずなのだが。[p] [er] ;画面揺らし ;立ち絵 店長 ;効果音 謎の男「フゥゥゥゥッゥゥゥゥゥ!!!!」[p] [er] 隆也「うわぁっ!」[p] [er] な、なんだ??!! 人? 人がにゅって! にゅって出てきたっ![p] [er] ;店長 ポーズ 謎の男「セイセイセイ! 少年……驚くなかれ……」[p] [er] 言いながら、目の前の男は妙ちくりんなポーズをとった。……決めポーズなのだろうか?[p] [er] ……形容しがたい不安を抱えながらも、目の前に佇む壮年の男をよく観察する。[p] [er] 革のベスト……。[p] [er] 革のパンツ……。[p] [er] アフロに、無理矢理押し込んだポリキャップ。[p] [er] すっかり日焼けした真っ黒な肌に、対照的に光る白い歯。[p] [er] そしてサングラス……。[p] [er] 隆也「……あの」[p] [er] 謎の男「なんだ〜い?」[p] [er] ;店長腰振り 男は俺に返すと、暴走機関車のごとく腰を上下にカクカクと揺らし始めた。[p] [er] ……紛うことなき変態。[p] [er] 隆也「……通してくれませんか?」[p] [er] これ以上この変態と絡むのには身の危険を感じる。そう思って立ち去ろうとしたのだが……。[p] [er] 謎の男「ヘイヘイ〜イ! 人の好意は素直に受け取る物だぞ、少年」[p] [er] そう言うと男は、またしても奇声を発しながら腰を振る。[p] [er] 隆也(お母さん、都会とはミステリーです)[p] [er] ;早苗 怒り 少女「そうよっ! せ、せっかくなんだし!」[p] [er] 気付くと、先程の少女も語尾を荒げて憤っているではないか。[p] [er] 隆也「な、なんだってんだ??」[p] [er] この状況は理解に苦しむ……が、どうにもこの場から逃れることは出来そうに無い。[p] [er] 直感的に思った俺は、観念して店の入り口に足を進めた。[p] [er] ■■店の中で ;SE 鐘の音 ;背景 喫茶店 ;BGM 喫茶店 隆也「む……」[p] [er] 店の中はコーヒーの香りで溢れかえっていた。[p] [er] こじんまりとした空間に、テーブル席が4・5台ほど。[p] [er] 後はカウンターで、喫茶店というより小洒落たバー。といった装いだ。[p] [er] 隆也「へぇ……」[p] [er] こういう装いの店は好感が持てる。[p] [er] 昼時も過ぎたはずだが、意外と店は賑わっていた。[p] [er] 隆也(もしかしたら、それなりに有名な喫茶店なのかもしれないな)[p] [er] そんな事を考えながら案内の係りを待つが、店員さん達は忙しそうに動き回っていてそれどころではなさそうだ。[p] [er] 入り口でボケっと突っ立ってるのも情けないので、黙ってカウンターの椅子に腰を下ろす。[p] [er] 隆也「ふぅ……」[p] [er] 荷物を置いて一息つく。[p] [er] 何より冷房がガンガンに効いているのがありがたい。[p] [er] 汗ばんだ体に冷たい風がひんやりと心地良かった。[p] [er] 客の多さの割りに静かな店内を見回しながら、目の前に置かれたメニューを手に取る。[p] [er] だが、開いて目に入ってきたものは、まさに異世界だった[p] [er] 隆也「おいおい……たかだかコーヒーになんだってこんな……」[p] [er] メニューの上を虫の様に這う字を眺めて、一人呟く。[p] [er] 声「いらっしゃいませ」[p] [er] 見知った名前を見付けようとした刹那、横から声が聞こえた。[p] [er] ;里美 普通 隆也「あ……」[p] [er] 店員「──お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」[p] [er] 気付くと、横には店員らしき女の子がオーダーを取りに来ていた。[p] [er] コトリ、と水の入ったグラスがテーブルに置かれる。[p] [er] 隆也「えっと……」[p] [er] 慌ててメニューに目を向けるが、何を注文したら良いのか見当もつかない。[p] [er] 店員「…………」[p] [er] 隆也「うーん……」[p] [er] 店員「…………」[p] [er] 隆也「えっと、じゃ、このアメリカンコーヒーで……」[p] [er] 考えた末、一番無難そうな物をチョイスする。[p] [er] 店員「かしこまりました」[p] [er] 女の子は言うと、持っていたボールペンで何事か伝票に書き綴る。[p] [er] ;里美 ちょい笑顔 店員「では、ごゆっくりどうぞ」[p] [er] ;里美 消す [er] ウェイトレスはカウンターに伝票を置くと、一礼して店の奥に消えていった。[p] [er] 隆也(どんなコーヒーだ?)[p] [er] ……。[p] [er] 隆也(ホットドックでも付いてくるのかな?)[p] [er] ;場面転換 声「何ニヤニヤしてんのよ?」[p] [er] 手持ち無沙汰にボケーとしていると、唐突に横から声が掛かった。[p] [er] ;早苗 呆れ 隆也「ん、あ、さっきの……」[p] [er] 隣には先程の女の子。……しかも、何故かちゃっかりと座っているではないか。[p] [er] 隆也「……仕事は良いのか?」[p] [er] ;早苗 笑顔 少女「まだシフトの時間までちょっとあるからね」[p] [er] 隆也「随分チョロいバイトだな」[p] [er] ;早苗 呆れ 少女「失礼ね、そんな事ないわよ」[p] [er] そう言うと、女の子は気だるそうに頬杖を付く。[p] [er] 何故だか俺は、そんな少女の行動に無性に腹が立ってしまった。[p] [er] 隆也「100歩譲ってそうだとしても、なんかやる事あるんじゃないか?」 [er] ちょっと刺々しく言い放つ。[p] [er] ;早苗 普通 少女「で、あんたの名前は?」[p] [er] が、そのままスルー。[p] [er] 隆也「……人の話聞いてるか?」[p] [er] 少女「名前」[p] [er] 隆也「…………」[p] [er] 隆也「……俺の名前か?」[p] [er] ;早苗 呆れ 少女「あんた以外に誰がいるのよ?」[p] [er] 確かに、女の子は目線はしっかりと俺を見据えている。[p] [er] 隆也「……内藤、隆也」[p] [er] ;早苗 笑顔 少女「ふーん……。じゃ、よろしくね、隆也」[p] [er] いきなり呼び捨てか……。[p] [er] 早苗「私は阿部早苗。阿部は普通の阿部で、早苗も普通の早苗って書く……ってネームプレート見れば分かるか」[p] [er] 隆也「随分普通な名前なんだな」[p] [er] ;早苗 呆れ 早苗「両親共々なんの変哲も無いから娘も普通の名前なのよ」[p] [er] 隆也「へぇ……」[p] [er] ;早苗 笑い 早苗「まぁ、あんたみたいに名前負けしてるよりかは、ずっと良いけどね」[p] [er] 隆也「俺は今まで名前負けしてると思ったことは無いけどな」[p] [er] ;早苗 困惑 早苗「ふ〜ん」[p] [er] 隆也「てゆーか、隆也だって普通の名前だろ」[p] [er] 隆也(って今まで思ってたんだけどな……)[p] [er] 早苗「……そう、かな?」[p] [er] ;早苗 むくれ と、そんな俺の問いかけを聞いて、目の前の少女は驚いたように言い澱んだ。[p] [er] 隆也「なんだお前は……自分から言っておいて……」[p] [er] ;早苗 むくれ 中空を見据えて何事か思案している姿を見ながら、そんな愚痴をこぼす。[p] [er] 早苗「……う〜ん」[p] [er] 早苗「なんか特別な感じがしたんだけどなぁ……隆也って……」[p] [er] 隆也「そいつは光栄だ」[p] [er] ;早苗 照れ 早苗「べ、別にあんたが特別とかじゃないんだからねっ!」[p] [er] 隆也「んな事分かってるって……」[p] [er] ;早苗 困惑 早苗「う〜ん……隆也、隆也ねぇ……」[p] [er] 隆也「怒ったり考えたり忙しそうだな」[p] [er] ;早苗 怒り 早苗「余計なお世話よ!」[p] [er] と、[p] [er] ;里美 普通 視線を泳がせた先に、先程注文を取りに来た少女の姿が見て取れた。[p] [er] 女の子「……」[p] [er] 恐らく、俺たちの間に入っていいものかと計りかねているのだろう。[p] [er] コーヒーの乗ったトレイを抱えながら、落ち着き無い様子で佇んでいる。[p] [er] 隆也(遠慮しないでいいのに)[p] [er] ;里美 非表示 ;早苗 怒り 早苗「ちょっと! 聞いてんのっ!?」[p] [er] 隆也「おう、お陰で耳が痛いぜ」[p] [er] 俺は早苗の話もそこそこに、もう一度少女に目を移す。[p] [er] と、少女は意を決したのか、こちらに向けて歩き始めたところだった。[p] [er] ;里美 通常 少女「……あの、アメリカンコーヒーになります」[p] [er] そう言って少女はトレイからコーヒーカップをテーブルに移すと、慣れた手付きでで伝票を拾い上げた。[p] [er] 早苗「あっ……」[p] [er] ;早苗 笑顔 と、ようやく同僚の姿に気が付いたのか、早苗が少女に向かってブンブンと手を振り出した。[p] [er] 早苗「里美おいすーっ!」[p] [er] ;里美 困り顔 里美「……」[p] [er] 里美、と呼ばれた少女は困ったような、ぎこちない笑顔を返す。[p] [er] 隆也「大変だな」[p] [er] ;里美 驚き 里美「えっ……?」[p] [er] 隆也「頭のおかしなヤツが同僚にいると」[p] [er] ;里美 真顔 里美「いえ……」[p] [er] 隆也「あれ……そうでもないの?」[p] [er] ;早苗 得意顔 早苗「この子はおねえちゃん思いだからね。アンタなんかの味方はしないわよ」[p] [er] 隆也「へっ?!」[p] [er] 慌てて二人の名札を確認する。[p] [er] 隆也「『阿部 早苗…』に『阿部 里美…』ってことは、そうなのか……」[p] [er] ;早苗 笑顔 早苗「そういうことよ」[p] [er] 確かに良く見ると面影が似ている……様な気がしないでも……ない?[p] [er] ;里美 困惑 里美「あの……」[p] [er] と、沈黙を破る声。[p] [er] 里美「この人って、お姉ちゃんの……その……」[p] [er] 隆也「ん?」[p] [er] 里美「……彼氏?」[p] [er] ;早苗 驚き …………。[p] [er] 早苗「………」[p] [er] ;里美 悲しい 里美「………」[p] [er] 隆也「………」[p] [er] 早苗「……惜しいわね」[p] [er] ;里美 驚き 里美「…惜しいの?」[p] [er] 隆也「お、惜しいのか?!」[p] [er] 二人同時にオウム返しに聞き返す[p] [er] ;早苗 困惑 早苗「そう、もうちょっと立場は下だけどね」[p] [er] 隆也「はぁ?」[p] [er] ;里美 驚き 里美「えっ……?」[p] [er] ;里美困惑 里美「………」[p] [er] 里美「……奴隷?」[p] [er] 隆也「随分と都落ちだなっ!」[p] [er] ;早苗 通常 早苗「そうなのよ」[p] [er] 隆也「そうなのかよっ!」[p] [er] ;里美 悲しい 里美「え……けど、随分前に奴隷を雇うのは国連が禁止したはずじゃ……」[p] [er] 早苗「……建前上はね」[p] [er] ;早苗 困惑 早苗「だってほら、これ見てよ」[p] [er] そう言って、早苗は自分の足首辺りをピシピシと指差す。[p] [er] 早苗の足には、怪我の割には明らかに分不相応な量の包帯が巻きついていた。[p] [er] ;里美 驚き 里美「ど、どうしたのっ? お、大怪我なんじゃない?」[p] [er] 隆也「ちょ、ちょま! そんな酷くはないはずだろっ!」[p] [er] 確かに傷の具合は分からないが、さすがに脛まで包帯を巻くのは大袈裟ではなかろうか?[p] [er] ;早苗 怒り 早苗「アンタに言われる筋合いないわよー。なんたってアンタが加害者なんだからねっ!」[p] [er] ;里美 驚き 里美「えっ……」[p] [er] 隆也「いやいやっ! 違う違う! 誤解だっ!」[p] [er] 早苗「ちょっと! 今更そんな言い逃れ!?」[p] [er] ;里美 困惑 里美「………」[p] [er] 隆也「いや、な? 確かに怪我はさせたかもしれないが、こんな足一本吹っ飛んだみたいな傷は負わせてないってっ!」[p] [er] ;早苗 困惑 早苗「見苦しいわよ」[p] [er] 隆也「だ、だから! 違うんだってっ!」[p] [er] ;早苗 怒り 早苗「あぁ、もうっ! 女々しいなぁ!」[p] [er] 隆也「ちょっと、違うんだって……聞いてくれ里美ちゃん……」[p] [er] ;里美 悲しい 里美「………っ」[p] [er] ;里美 怒り 里美「ごゆっくりどうぞっ!」[p] [er] 隆也「ちょ、ちょっと待って……」[p] [er] ;里美 非表示 ……それだけ言うと、里美ちゃんは俺の制止を振り切ってホールへと消えていってしまった──。[p] [er] 隆也「あぁ……」[p] [er] ;早苗 悲しい 早苗「嫌われちゃったね……」[p] [er] 隆也「おまえのせいだぁぁぁぁ!!!」[p]