――ピリリリリ、ピリリリリ! 耳障りな携帯の音で、俺は目を覚ました。 隆也「朝っぱらからどこのどいつだ……?」 少々訝しげに思いながらも、俺は受話ボタンを押して耳に当てる。 ???「もしもし、隆也?」 隆也「なんだ、可奈かよ……」 ケータイから漏れてきた声の持ち主は、俺のよく知った奴だった。 可奈「なんだとは聞き捨てならないわね……」 隆也「そんぐらいで怒るな。で、何の用だ?」 可奈「はぁ? 何の用だ、って……。隆也が呼んだんでしょ?」 隆也「俺が呼んだ? ……スマン、何の事だ?」 さっぱりわからないんだが……。 可奈「あー……隆也、今まで寝てたでしょ」 隆也「ん、ああ そうだけど」 だから何なんだ…… 可奈「はぁ、いつもの寝ボケ癖か……とりあえず駅まで迎えに来て」 隆也「はぁ?」 可奈「私は隆也の新しい家どこか知らないんだから、それじゃヨロシクね」 隆也「え、ちょ、ま――」 ツー、ツー、ツー 意味がわからん……けどあいつ放置すると後が怖いからな……。 ああくそ、しょうがないけど行くか 可奈「おそいっ! 今何時だと思ってるの!? 11時半よ、じゅういちじはん! 30分も遅刻!」 隆也「あぁ……正直スマンカッタ」 可奈「ふーん、そうねぇ……」 と言って、可奈ニヤニヤしながら何かを考えだす。 それからポンッ、と手を打ってから 可奈「うん、ご飯1回おごりで許してあげる」 隆也「はぁ!? マジかよ……」 可奈「引越しの手伝いまでしてあげるんだから、それぐらいしてくれたっていいでしょ?」 隆也「そう、それなんだよ!」 可奈「え?」 それなんだ。何故に俺はコイツなんかに頼んだんだ……他に誰もいなかったのか、俺。 可奈「ちょっと、隆也……?」 気がつくと、可奈が不審そうにこちらを見ている。どうやらブツブツと口を動かしていたらしい。 隆也「大丈夫、なんでもない」 可奈「そう……ならいいんだけど。早く案内して」 隆也「いや、その前に荷物を取りに行かないとだめじゃないか?」 可奈「それなら大丈夫だから、ほらほら早く!」 隆也「大丈夫? ってどういうことだ?」 可奈「行けばわかるから、ほらっ」 隆也「また行けばわかるかよおぁっ!?」 足が、足が潰されている!? 可奈「はいはい、文句言わずに行きましょ」 この女……悪魔だな。 そして、アパートの前。……なんだが。 隆也「おい、荒巻。どうしてお前がここにいるんだ?」 そこには軽トラが1台と、一人の男がいた。 可奈「私が呼んだからよ」 隆也「はぁ?」 どういうこった。 荒巻「俺が飯島さんに頼まれて、わざわざお前のために荷物を運んできてやったんだ」 隆也「あぁ、なるほどな」 しかし…… 隆也「お前、どうやって俺の家から荷物を?」 荒巻「ふっ、お前は知らないのか? 俺がピッキングマスターと呼ばれている事を……」 荒巻はポケットから1本のハリガネを取り出し、天に掲げた。 馬鹿だ……コイツは真性の馬鹿だ……。 可奈「おーい、そこの男二人っ! 早く段ボール中に入れてくれないかなぁ?」 荒巻「おぉ、任せてください、飯島さんっ!!」 ……あと、とりあえずパシられてる事にぐらい気づけ。 可奈「1,2……あら、2つしか無いの? 段ボール」 隆也「まぁな……必要な物なんて服ぐらいだし」 可奈「へぇ。それじゃあ、電化製品はどうするの?」 隆也「そのうち買いに行く」 可奈「私ついていこっか?」 隆也「別に来ても面白いことはないぞ?」 可奈「いいよいいよ、その時は呼んでね」 隆也「あぁ、了解。それじゃあ作業行くか」 可奈「イエッサーッ!」 俺は段ボールのほうへ視線を送る。 さて、3つの段ボール……1つは衣服、そしてもう1つは本や雑誌。 とりあえず俺は衣服の方をやるか……女に下着を触らせるのは気が引けるからな。 隆也「可奈、お前はそっちの段ボールを頼む。部屋の隅の方に置いといてくれ」 可奈「おっけー♪ んっ……結構、重いわね……」 隆也「持ち上げなくていいぞ? 大した物が入ってるわけじゃないしな……」 可奈「そうなの? じゃ、ちょっと拝見してみようかしら」 何っ!? まずい、あの中には……! 隆也「待て、中は見るな!」 可奈「何でよ?」 隆也「いや、そのだな……見せたくない物が……」 可奈「なになに? 見せたくない本ってどんなのかなーっと」 隆也「馬鹿、開けんなっ――ああ……」 間に合わなかった……可奈の手には一冊の本が握られていた。 その手が、ぺらりと表紙をめくる。 可奈「きゃ、何これ?」 隆也「何って……見りゃわかるだろ? アルバムだよ、アルバム」 可奈「ふーん、それにしても……ちっちゃい隆也カワイー♪ ね、ね、1枚もらっていい?」 隆也「勝手に持ってっていいからさっさと運べ!」 可奈「ちぇっ……はーい」 油断も隙も無いな……